あぁーーーー!!!ホントムカつく!!!
大石の奴!なんであんな奴、家に上げるんだよ!!
今日はせっかくゆっくり二人で過ごせると思ったのに・・・
こんな事なら大石の家族が家にいないってわかってても、何処か外に出かければ良かった。
ついつい家族がいない・・なんて久し振りだし水槽を掃除したらイチャイチャ出きるかな?
なんて下心だしたのが間違いだったよ!
家にさえいなければ・・・あんな奴に会わなくて済んだのに・・・
何が伊織だよ・・
何が昔は昔・・・今は今だよ・・・
こうなったらマジで早く帰ってもらうかんな!!
俺は怒りに任せて、お菓子をテーブルに置きドサッとソファに座った。
ったく・・・・大石のムッツリスケベ!!!
「えっと・・・ここはやっぱりお互い自己紹介をした方がいいんじゃないかな?」
リビングにジュースを運んで来た大石が、伊織を座らせた後俺の顔を見る。
「自己紹介?」
なんで俺がこいつに名前なんて教えなきゃなんないんだよ!
と心の中では思っても、ここはなるべく穏便にしてさっさと帰って貰わなきゃなんないし・・・で俺は仕方なく手を差し出した。
「俺。菊丸英二。大石とはテニス部で一緒でダブルス組んでんだ」
「そうなんだ。俺は神田伊織。大石とは小5の時に同じクラスで親友なんだ」
「親友?」
思わず疑問系で答えてしまった。
それに繋いだ手にも力が入る。
誰と・・・誰が親友だって?
「まっまぁ・・・お互い名前を言い合ったんだし。もうこれで友達って事で・・・なっ」
大石が俺達の間に割って入る。
「そうだね。じゃあよろしく英二!」
伊織の奴はニカッと俺に笑顔を向けた。
えっ・・・英二ね・・・別にいいけどさ・・・・
「あぁうん。よろしく。伊織」
俺も頑張って笑い返したけど・・・その顔はかなり引きつっていた。
ハハハハハ・・・・クソー!!何かムカつく!!
「はい。大石これおみやげ」
俺がイライラを押さえるのに、お菓子をボリボリ食べていると伊織の奴が持ってきていた紙袋を大石に差し出した。
「えっ?おみやげ」
「うん。蕎麦なんだけど・・・大石好きだったよね?」
「えっ?あぁ・・・うん。ありがとう」
ハァ?何が『うん』だよ。
お前が好きなのはハマグリの吸い物と串揚げじゃんか!
俺は無言でお菓子を食べ続ける。
「良かった・あっそうだ!今晩大石だけならこの蕎麦を晩ご飯にするっていうのはどう?」
「あっ・・・いや・・・その・・・晩ご飯は・・・」
言葉に詰まる大石の姿に俺は心の中で答えた。
今晩は、俺が作るんだよ!!もうふわふわオムレツって決まってんだよ!!
大石の奴も早く断れよ!!
「ここの蕎麦美味しいんだよ!何なら俺が作ってやろうか?」
「あっ・・いや今日は・・・」
ったく・・・大石の奴・・・何やってんだよ!!
モタモタする大石を見ながら俺はジュースを一気に飲み干し、勢いよくテーブルの上に置いた。
「大石。おかわり!!」
「あっあぁわかった。すぐに入れて来るよ」
大石は俺のコップを持つと、すぐにキッチンへと向かった。
俺はその後姿を見送って、伊織を見据える。
「あのさ〜伊織。大石気を使って言わないけどさ、今晩のご飯はもう決まってんだよ。
お前も大石の親友とか言うんなら、その辺察しろよな」
ちょっと意地悪かな?と思ったけど、言わないでこのまま押し切られても困る。
それに・・・ちょっと気になるんだよな・・・
さっきの会話・・・コイツまさか・・・ずっといるつもりなのか?
俺があれこれ考えていると、ずっと黙っていた伊織が俺と同じ様に一気にジュースを飲み干して勢いよくテーブルの上に置いた。
「ふ〜〜〜〜ん。あっそう・・・で、英二は大石の何?」
「は?」
大石の何って・・・・そんなの恋人に決まってんじゃん!!
って言えたらいいけど・・それは流石に不味いよな・・・
「ダッ・・・ダブルスパートナーで親友だよ。それが何だよ」
「へ〜〜〜親友ね・・・」
伊織の顔はいつの間にか、さっきまでの笑顔は何処に行ったんだよってぐらい無表情に俺を睨み付けている。
なっ何だよ・・・文句あんのかよ・・・
無言で重い空気が流れる。
「お待たせ英二・・・んっ?どうした?」
ようやく戻った大石が、無言で座ってる俺のピリピリした様子に気付いたようだ。
「大石あのさ・・」
俺が大石の事を見上げて話そうとした時に伊織がソファから立ち上がった。
「大石。久し振りに大石の部屋見せてよ」
「えっ?あぁいいけど・・・あまり変わってないぞ」
伊織は大石の腕を掴んで、さっきまでの無表情から一転また笑顔を見せている。
大石は俺の事を気にしつつ、それでも伊織の笑顔に答えていた。
なんだよ・・・ったく・・・
「その方が懐かしくていいよ。行こう」
「そうか。わかった」
何だよ大石の奴・・・俺が話しかけてるっていうのに・・・
伊織に乗せられちゃって・・・優しくしちゃってさ・・・
伊織を早く帰すんじゃなかったのかよ・・・
「英二」
「なんだよ」
顔を上げると、大石が俺に手を差し伸べていた。
大石・・・
「行こう」
「あっ・・・うん」
仕方ない・・・・大石のこの手に免じて、あと少しだけ我慢してやるか・・・
そう思って大石の手を握ろうとしたのに、俺の手は大石の手に繋がれる事無く空をきった。
アレ?何で?
「大石。早く行こう」
「あっあぁ」
あっ!アイツが大石を引っ張ったのか・・・・
大石は心配そうに俺を見てる。その大石を見た伊織が俺に向かって言った。
「英二も早く立てよ」
大石の背中を押して先に歩かせた。
何だよアイツ〜〜〜〜〜!!!
ギリギリ歯軋りしてると、2.3歩進んで伊織が振り返った。
「早く来いよ英二。置いてくよ」
でもその顔は大石に見せる笑顔ではなく、挑戦的な不敵な笑みだった。
コンニャロ〜〜〜〜!!!!
「うわぁ〜〜〜ホントだ変わってない」
伊織は大石の部屋に入ると、アクアリウムや机や本棚を確かめるように見た。
ここが変わってない、ここが少し変わったって見る物にいちいち反応しては、微笑み合いながら昔話に花を咲かせている。
「アクアリウムずっとやってるんだね」
「あぁ。これはたぶんこの先もずっと変わらずやってるよ」
俺はそんな二人の姿を大石の部屋に入ってからずっとベッドの上で座って見ていた。
伊織の奴に挑発されるようについて来たけど・・・・
まるで俺の存在を忘れたように、今はアクアリウムの前で話し込んでる。
大石の奴・・・努力するって・・・頑張るって言ったのに・・・
「最初は金魚から・・・だったよね」
「あぁそうだったな・・・」
俺の知らない昔の話
俺の知らない大石の話
久し振りなのはわかってる。
話たい事や、聞きたい事がお互いにたくさんあるのかもしんない・・・
けどさ・・・こんなの・・・つまんない・・・・
そんな思いがつい言葉となって出てしまった。
「つまんない・・・」
「えっ?」
呟くように言った言葉に大石と伊織が振り向く。
「だから・・・こんなのつまんない!アクアリウムの話なんてもういいよ!」
叫ぶように言うと、俺は大石をギッと睨んだ。
気付いてよ大石・・・つまんないよ。
早く二人になりたいよ・・・
「英二・・・ごめん。そうだな英二も一緒に話せる話をしよう」
大石が俺に近づいた。
「なっ・・英二」
「大石・・・」
やっと大石が俺の方を向いてくれた・・そう思ったのに、また伊織が大石の腕を掴んだ。
「ねぇ。大石。僕・・・のどが渇いちゃった。何か入れてきてもらっていい?」
大石は俺に近づきかけた体を捻り、伊織を見る。
「えっ?」
「クーラーで体が冷えちゃって・・・出来れば温かい紅茶かコーヒーがいいな。
ねぇお願い大石」
こいつ・・・絶対わざとだ・・・
「寒いのか伊織くん・・・?」
「うん」
大石が心配そうに伊織をみつめる。
「あんまり体が冷えすぎると良くないんだ。頼むよ大石」
大石は体に良くないって言葉を聞くと、目の色を変えた。
「そうか。わかった。じゃあすぐ作ってくるから。
伊織くんはこのイスにでも座っててくれ。
それと他にいるものはないか?」
「じゃあさ。少し寒いからあのジャージ借りていい?」
伊織は壁にかかっていた、大石の青学ジャージを指差した。
「あぁ」
大石はそれを取ると、伊織の肩にかけてやった。
「ありがとう。大石。じゃああと飲み物頼むね」
伊織が言うと、大石は『わかった』と返事してそのまま部屋を出て行った。
俺はジッと伊織を見ていた。
寒い?この部屋が?そんな事ない・・・・
一応クーラーはかけているけど、大石はいつも温度の設定には煩いんだ。
体を冷やしすぎて、風邪を引かないようにって・・・
だからこれは絶対に・・・
「ねぇ英二。英二と大石ってホントに親友なの?」
伊織は大石の机の上にあった、俺達が写ってるフォトスタンドを指でなぞる。
「親友だよ。それが何だってんだよ」
俺は構えるように答えた。
こいつ・・・何が言いたいんだ?
「だけどそれはテニスをしているからだよね?」
「へ?」
テニスが何・・・?
「テニスが出来なきゃ親友になんて、なってないって言ってるんだよ」
伊織がまた不敵な笑みを俺に向ける。
こいつ・・・・
「ハァ?何言ってんだよ。そんな訳ないじゃん!俺達はテニスがなくても・・・」
「それはどうかな?ホントにそうだと言い切れる?」
伊織が俺の言葉を遮って、睨むように視線を向けた。
テニスがなければ・・・
確かに俺達が知り合ったのは、部活に入ってからだけど・・・
だけど・・・俺達の絆は・・・俺の想いは・・・
そんなもんじゃないって・・・・・・・・・・・
クソッ!何だよ・・・そんな風に言われたら不安になるじゃん。
やっぱあの時入ってなきゃ・・・今の俺達はないのかなって思っちゃうじゃん。
何だよコイツ!!!
俺に何が言いたいんだよ!!
「やっぱり否定・・・出来ないみたいだね」
俺がギリギリ歯軋りすると、伊織がクスッと笑った。
「大石って優しいよね。しかも誰にでも同じように優しく接して・・・凄いよね。
だけどね。その中には特別があるんだよ」
特別・・・?
「とっ・・特別ってなんだよ」
答えながら俺は自分の心臓の音が少しずつ速くなるのを感じていた。
嫌な予感がする。
「ねぇ英二。大石の初恋って知ってる?」
おっ大石の初恋・・・・?そんなの・・・・
「知らないよ。聞いた事ないもん」
「こういうの英二には・・っていうか一般の人には受け入れてもらえるかわからないけど
大石の初恋って俺なんだ」
えっ?何・・?
大石の初恋が・・・伊織?
「ハ?何言ってんだよ・・・」
否定しながらも、声が震える。
「やっぱりそう思うよね。でも本当なんだよ。俺達はまだ小さくて男同士だったけど・・
それでも大石は俺の事好きだって言ってくれたんだよね」
「大石が・・・?」
頭が痛い・・・耳鳴りがする・・・
「それなのに俺、気管支が弱くて引っ越さなきゃ行けなくなって・・・凄く辛かったよ。
別れる時にまた必ず会いにくるって約束はしたけどさ・・・」
大石が・・・こいつの事好きだったなんて・・・そんな訳ないって言ったのに・・・・
あれは嘘だったのかよ・・・
昔は昔・・・今は今・・・・
だけどお前の昔が今・・俺の前にいるじゃん・・・
大石・・・
「英二聞いてる?だからこいうい事言いたくないけど・・・
もし俺が元気で東京を離れる事がなければ、大石の隣は俺だったって事」
悔しい・・・上手く言い返せない事も・・・
大石を信じきれない自分も・・・
何もかもが悔しい・・・・
だけど・・
「なっ・・何だよ。そんなに言うんだったら・・・今まで何で会いに来なかったんだよ」
俺は精一杯伊織を睨んだ。
「それは・・・俺にも色々あったんだよ。体の事とかホントに色々ね・・・・
でもさ・・・英二。会ってない時間なんて俺達には関係ないよ。
今日大石に会って、その事を確信した」
伊織が立ち上がって俺に近づく。
「大石も変わってないって」
なっ・・何が変わってないだよ・・・
俺もベッドから降りて立ち上がった。
「勝手な事いうなよ!!大石は今は俺の大石なんだかんな!!」
「だからそれは、テニスをしているからだろ?」
「違う!!」
俺が叫ぶと伊織は床に出しっぱなしになっていたアルバムを指した。
「アルバム見たんだよね。あれ見て気付かなかった?俺はテニスをしていなくても
大石の隣にいたよ。でも英二は違うよね・・・」
今度は机の上にある、フォトスタンドを指す。
「テニスがなきゃ友達にもなってないよ」
こ・・・こいつ・・・・許せない!!
俺達の絆も知らないくせに・・・・
今頃出てきて好き勝手な事言いやがって・・・
俺と大石は・・・・
『テニスがなきゃ友達にもなってないよ』
俺は頭を横に振った。
うるさい・・・
「ね。英二・・・」
うるさい・・・・黙れ・・・
「認めなよ」
「うるさいっ!!!!」
俺は怒りに任せて、思いっきり伊織を突き飛ばした。
伊織はそのままベッドの方へ吹っ飛んでいく。
「英二!!!!」
その時大石の声が部屋に響いた。
伊織くんが・・・ちょっと不二っぽいですが・・・その辺りはスルーでお願いします☆
ラストまであと少しです・・・
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